本文
十七、浪逆江の竜巻
(『櫻齋随筆』より)
作者である鹿島則孝が、浪逆浦(なかさうら)で見た竜巻について記録しています。竜巻によって川魚が雨のように降ることがあったとも記載があります。
読み下し文
昨十七年一月、鹿島郡勝下村の海上尓天颶風を發し、同村尓てハ家作を巻き阿希られしと聞しガ、予も先年浪逆江の沖尓天、水を巻揚るを見多り。海河ともにあること尓天、予ガ見たるは暑気の頃也。其響盤遥に遠くまで聞るものニて、晴天奈ガら巻揚介る所尓ハ少しく雲気を生じ、忽ちに空かき曇り颶風を起し驟雨降来多れり。此水巻、時尓寄りてハ、雨中に鯉鮒其他の河魚を降ら須こと度々阿り。何れも小魚也。又海上尓も同しこと阿り。鹿島洋尓ても見る人あるよし。然連ど魚類盤海底深く沈由ゑ尓や、魚乃降多ることハ無しと。此水まき揚ハ龍の為す業尓し天、水中丹婦人乃帯のごときもの阿り天、翻るを見多るものもありと云へり。此水まきは驟雨尓奈るのミ尓天、颶風ハ烈し可ら須。されども大方は類したるもの奈り。猶其原因毛、何物奈るや知る能ハ須。
現代語訳
昨17年(明治17年)1月、鹿島郡勝下村(現在の茨城県鉾田市)の海上にて竜巻が発生して、同村内で家が巻き上げられたと聞いたが、私(鹿島則孝)も先年浪逆江*1の沖にて、水が巻き上げられているのを見た。
竜巻は海と川と共にあることで、私が見たのは暑気のころ。その音ははるか遠くまで聞こえるもので、晴れていたが巻き上がっているところは少し雲がかかり、たちまち空がかき曇り竜巻が起こり、急に雨が降ってきた。この水巻は、時によっては、雨の中に鯉や鮒その他川魚を降らすことが度々あった。いずれも小魚である。また、海上でも同じことがある。鹿島灘でも見た人がいる。しかし魚類は海底深く沈むので、魚が降ることはないという。この水の巻き上げは龍のなす業であり、水中に婦人の帯のようなものが翻っているのを見た人もいるという。私が見た水巻はにわか雨になるのみで、つむじ風は激しくない。それでも、大方は似たり寄ったりである。なお、その原因は何なのか、知ることはできない。
*1 茨城県南東部にある神栖市と潮来市にまたがる湖。現在は外浪逆浦のみが残り、北側の内浪逆浦は埋め立てられて宅地となっている。