本文
七、フツノミタマノ劔
(『櫻齋随筆』より)
鹿島神宮の宝剣「フツノミタマノ劔」について、徳川吉宗が上覧させるように命令したものの、大岩の下に厳重に封印されていたため、とり止めになった、という逸話が記載されています。
鹿島神宮の「韴霊剣(フツノミタマノツルギ)」は「直刀黒漆平文大刀拵(ちょくとう くろうるしひょうもんたちこしらえ)」として、昭和30年に国宝指定されています。
読み下し文
有徳院公方様、諸國の寺社尓阿る什物を御取寄せ上覧ありし尓、刀剣の類ハ於不く贋物ニ而、正真乃物ハ王つ可尓かそふる不ど阿りし。常陸鹿島神宮ニふ徒のミ多まの宝剱といふ物阿り。世尓名高き物なれハ、上覧あるへしと被仰出介るに。この御劔者往古より巌石の下尓収めありて、終尓拝見世し毛の奈きよし、神主言上し介れハ、さも阿連、先くハしく糺春へきよしニて上使叅り、向ひ穿鑿阿りし丹、件の巌石越引の希多れハ、石槨の中尓、宝剣と於保しき毛の、袋尓納めて窂しく封し、開く遍可らさるよし、書付阿りし可者、上使帰りて言上せし尓。左様奈らハ上覧尓及ハ須。但その御剣の形い可やうなる物にや。袋の上より探りて委しく申上へしと阿り。佐くりて見多る尓、誠尓宝剣と思ハ連、こと尓太く大婦りなる物尓覚へしと。其次第言上ニ及ひ、上覧奈くて止ぬるとそ。
現代語訳
有徳院公方様(徳川吉宗公)が、諸国の寺社にある秘蔵の宝物をお取り寄せになり、上覧されたが、刀剣の類の多くは偽物で、本物は僅かに数えるほどであった。常陸鹿島神宮にフツノミタマノ宝剣というものがある。世に名高いものなので、上覧させるようにとご命令があった。「この御剣は、昔から大岩の下に収めてあり、拝見したものがいない」と、神主が言上したところ、「ともあれ、まずは詳しく調べるように」と使者がやってきて詮索するので、例の大岩をどけてみたところ、石の棺の中に宝剣と思われるものが袋に入ってしっかりと封じられており、「開くべからず」と書付があった。使者は帰って言上したところ、「左様ならば上覧はしない。ただし、その御剣の形はどのようなものなのか。袋の上から探って詳しく申せ。」とのこと。探ってみたところ、本当に宝剣が入っていると思われ、特に太く大振りなものであった。その次第を言上したところ、上覧はやめになったと言う事だ。