本文
四、鹿島の気候
(『櫻齋随筆』より)
ここでは東京と鹿島の気候の違いが、梅と桜の開花時期を比較して書かれています。
読み下し文
東京と鹿島の気候を試るに、これまで毎年冬の寒気は、東京の方強く、それゆえに、梅花は二月下旬ならでは、真盛りにならず。その割にしては、桜花は四月初旬、開花す。
本年も、則泰よりの書状に、四月廿二日、飛鳥山へ行きしに桜花は、散たりと云う。本村はこれに反し、梅花は、毎年十二月初旬より開き、一月下旬、二月初旬、(梅花に遅速有るゆえ)を真盛とす。
また桜花は、其割には開かず。本年などは、四月廿二日には、(山桜も八重桜も塩竃桜、)一同に真盛にて、咲も後れず散もはじめずといふほど也。梅、桜の開花いといぶかし。
これは本村は、海岸ゆえ、冬より新春へかけ暖気にて 二月頃より、東風吹つづくと、艮より巽の方に、海ある由ゆえ、沖より吹来る風、甚だ寒く、人も草木も、しのぎかねる程也。
其ためしは、着服及び夜具なども四月頃までは、厳寒の時と同しこと也。それゆえに、梅は早く櫻は遅く咲ならん。菜の花も、暖気の十二月より少しつゝ開き、二月頃に至り、雪霜の為に萎しぼみするもあり。(中略)夏の作物、すべて遅く茄子なども、七月初めに実り、十一月まで花咲く也。(後略)
解説
則泰とは則孝公のお孫さんにあたる方で、飛鳥山とは東京の桜の名所の一つです。
東京では梅は2月下旬に真っ盛りを迎え、桜が4月初旬に開花するのに対し、鹿島は、梅は12月初旬に開花して1月下旬(遅咲きのものは2月初旬)に真っ盛りを迎えるが、その割に桜の開花時期は遅く、今年は桜の真っ盛りが4月22日だったと書き記しています。
鹿島が東京に比べて、梅の開花が早く桜の開花が遅い原因は、通常は東京より温暖である鹿島に、2月頃から冷たい風が海から吹いてくるためであり、衣服や寝間着も4月頃まで冬物だと書かれています。