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常陸国風土記に記された”鹿嶋”

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記事ID:0050031 更新日:2021年3月29日更新

風土記(ふどき)とは―

和銅6年(713年)5月2日、各国の特産物・山川原野の名の由来等を撰進するよう詔が下され、国司を中心に編纂され、解文(げぶみ)(報告文書)として平城京に提出されたものが風土記です。現存している風土記は5風土記(常陸国・出雲国・播磨国・肥前国・豊後国)で、完本は出雲国風土記だけです。

常陸国風土記は養老年間(717~723)に常陸国司であった藤原宇合(うまかい)(藤原鎌足の孫)によって完成したとする説が有力です。その内容は単なる報告ではなく文学性に富み、当時の習俗・社会のありさまが断片的にうかが窺えます。常陸国の各郡ごとにその地の特色などが記載されており、特に鹿島については神と人間の理想郷として書かれています。

『常陸国風土記』香島郡の条

(―略)天の大神の社の周りには※卜氏が住んでいる。

そこは、地形が高く東と西は海に臨んでいて、嶺と谷が犬の牙のように村里に交わっている。山の木と野の草が生い茂り、まるで、中庭の垣根を作っているようだ。潤い流れる崖下の泉は、朝夕の汲み水になる。台地の峰の頂きに住まいを構えれば、生い茂った松と竹とが、垣根の外を守ってくれる。谷の中腹に井戸を掘れば、生命力旺盛な葛の葉が、井戸の壁面を覆い隠す。

春、その村を歩けば、様々な草花が咲き乱れ、かぐわしい香りを放っている。秋、その道を過ぎ行けば、数多くの木々に、錦織りなす木の葉が美しい。ここはまさに、神と仙人が隠れ住んでいるような所だ。くしき力を持つ何かが生まれ出づる土地だ。その佳麗な不思議さは、とても書き表す事が出来ない。

その天の大神の社の南に郡役所があり、北に沼尾の池がある。土地の古老の話では、沼尾の池は、神代のむかしに天から流れてきた水沼だという。なるほど、池に生える蓮根は、比べる産地がないほど味わいを異にして、大変美味いとしかいいようがない。そればかりか、病に苦しむ者は、この沼の蓮を食えば、たちどころに治るという。この池には、鮒や鯉も多く生息している。この地は、以前に郡役所が置かれた所で、たくさん橘を植えていてその実も美味い。

常陸国風土記の中のこの一節は、香島の神の神秘性を説いています。叙情的な表現を用いて語られる神の郡は、あたかも、神と人とが同居する空間として描かれ、神の恵みを享受する古代の人々の喜びと生き方といったようなものを感じることができます。神を祀り、神と共に日常を送っていた香島の人々は、常世の国・常陸の中でも特別な氏族であったのでしょうか。

『図説鹿嶋の歴史原始古代編』より

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